健康保険制度が破綻の危
機に瀕している。高齢化社
会を迎えて保険料の引き上
げと自己負担率の上昇が避
けられないという。
老人が増えれば医療費は
増大する。だが、風邪やリ
ューマチで外来を訪れる高
齢者が増えたからといっ
て、すぐに国家財政が破綻
するわけではない。患者一
人あたりの比較では、老人
医療費はさほど高くない。
保険財政が悪化する原因は
高額医療費にある。
医療技術の進歩によって
不治とされてきた病気に治
癒可能性が開かれた。素晴
らしいことだが、手放しに
喜ぶわけにもいかない。高
橘 玲
もうひとつの幸福のルール
2003.06.08 日経
ずか五%の患
者が全医療費
支出の七〇%
を占める。
日本人の八
割近くが病院
で死ぬ。終末
期の医療費は
一ヵ月百万円
以上と群を抜
いて高額で、
今後、高齢者
カ月以内に死亡していると
もいう。人は医療費の大半
を、死亡するまでの数日間
で使っている。
米国では民間保険会社が
症例ごとの治療ガイドライ
ンを定めており、そこから
逸脱した医療行為には保険
金を支払わない。これによ
って過度の延命治療が抑制
されている。慢性病の患者
宅に看護師を派遣し、生活
医療の「正義」とは何だろう
度医療には途方もない金が
かかるからだ。
日本では、医療費の約半
分が上位一〇%の患者に使
われている。米国では、わ
の大半が病院死を選択すれ
ばその医療コストは数千億
円規模になる。一ヵ月の医
療費が一千万円を超えたケ
ースのうち、半数以上が数
に介入してまでコスト削減
を図ろうとしている。
もちろん、こうした措置
には批判も多い。だが、保
険会社にも言い分はある。
一部の自堕落な患者が高
額の医療費を請求すれば、
そのツケは他の善良な保険
加入者が支払うことにな
る。不健康な生活を送るの
は本人の自由だが、その治
療費を他人に負担させるの
では虫がよすぎる。
保険財源は有限なのだか
ら、高度医療の提供は治癒
可能性の高い患者を優先す
べきだ。医療費を最適配分
しなければ、助かるはずの
患者が死んでいく。
そしてこう付け加える。
もちろん最善の治療を求め
るのはあなたの自由です。
ただし、自分のポケットか
ら払ってください。
彼の国ではこれが「正義」
とされているが、日本では
受け入れられないだろう。
人の生命に格差をつけるこ
とにつながるからだ。
私たちは医師に最善の治
療を求めることを当然と考
えている。それは高額療養
費制度によって医療費の大
半が還付されることと無関
係ではない。
仮に四千万円の医療費が
かかっても、自己負担額は
わずか四十六万円。これは
持続不可能な大盤振る舞い
であり、近い将来、高額医
療費を保険で賄えなくなる
のは間違いない。
その時あなたは、どちら
の正義を選ぶのだろう?
(作家)